初めての人とお会いする時に、なるべく端的に自分を知ってもらいたいと思って、
相手によっていくつかの自己紹介のパターンを持つように心がけています。
とっさの時に気づかされるのが必ず「私はデザイナーです」とか、
「デザインの仕事をしています」と言っていることです。
特に意識してないのですが、ふいに口をついて出てくるのです。
そして、だいたいこの一言でほとんどの人が
「あ。なるほど、わかりました。」という表情を浮かべ、
私が誰であるかがわかった!という様子に一応落ち着きます。
ところが、その様子がいつの頃からか、
少しづつ変わってきたと感じています。
当然のように「デザイナーです。」と言うと、
「何のデザインをやっているのですか?」とか、
「じゃあ、Macが得意なんですね?」とか、
「デザインって要するに何ですか?」と
聞かれることが多くなりました。
変わらず私自身はデザインの仕事を続けていますが、もしかしたら、時代とともにデザインを取り巻く環境が変わったのかも
と感じるようになりました。
そこでこの記事では、
デザインを取り巻く環境の変化とあわせて、デザインとは何か?についてお話しします。
デザインって何?語源と由来
「デザインって何?」
これは、最近とてもよく聞かれる質問です。
デザイン(英語のdesign)の語源は、
ラテン語のdesignareとフランス語のdessinを
由来とします。
それぞれの意味は、次の通りです。
designare(ラテン語):線を引く、描く*
dessin(仏語):デッサン、素描、下絵(線で描く)**
引用:*ブリタニカ国際大百科事典、**外来語語源辞典
デザインの語源はデッサン(dessin)と同じく、“計画を記号に表す”という意味のラテン語designareである。
引用:Wikipedia
まとめると、
- 想念、考え方、アイデアなど、頭の中に抽象概念が存在する
- それを記号(設計、図案)化して表現する
という2つの段階に分けられ、
これらの工程をあわせてデザインと呼びます。
かなり古い話ですが、高校時代に通っていた美術の予備校で、芸大(=東京藝術大学)のデザイン科卒の講師の方が来て、デザインの講義をしてくださったことがありました。
芸大のデザイン科は、以前は図案科と呼ばれており、「デザインとは本来、設計とか図案という意味である」と説明されていたことを、今でも鮮明に覚えています。
デッサンという言葉は基本的に、見たものやイメージしたものを再現する行為を指し、そこには狙いとか意図は含まれません。
しかし、できあがったデザインには必ず目的や意図が含まれます。
目的や意図があって初めて、計画が生まれるからです。
(関連記事:デザイン(design)動詞と名刺)
「頭の中で考える」+「表現して伝える」=デザイン(設計・図案)
以上のことからデザインとは、
「頭の中で考える」+「表現して伝える」
と考えると、わかりやすいかと思います。
対象とするプロジェクトの規模とか種類によって、
- 建築とかインテリア、家電製品などであれば
「設計」 - お店や会社のロゴとか看板だったら
「図案」
というような日本語に置き換えることもできます。
逆に「図案」という言葉からは、刺繍とかテキスタイルの柄のような、手工芸品的イメージが浮かびませんか?
デザインと手工芸って、一見、結びつきにくいかもしれません。
こういう世界って、いかに綺麗に丁寧な仕事ができるかという職人的技術にフォーカスされがちですが、少しデザインを意識するだけで、従来とは違ったものをつくることもできるのです!
結局、デザインという言葉には、具体的なイメージや趣味嗜好、テイストなどは含まれていません。
それはあくまでも、「頭の中で考える」+「表現して伝える」という一連の流れです。
そして現実に出来上がったもの=成果物が、いかに考えられていて、どれほどの仕上げになっているかを評価する言葉として、「デザインが良い」とか、「美しいデザイン」、「デザインに凝っている」など、デザインという言葉が使われています。
言葉の意味を意識すると、かなりイメージが明瞭になりますね!
デザインは身近な存在で誰もがデザイナーになる時代
私がデザインを学び、仕事を始めた頃は、まだコンピューターやインターネットをみんなが使うような時代ではありませんでした。
ですから、「考えて表現すること」を専門的に扱う人がいて、それがデザイナーと呼ばれる職業だったのです。
そして当時、アイデアを実際に表現をするためにはコンピューターではなく
- 製図用具、機材
- 絵の具やマーカー、ペンなどの色材や画材
- 模型を作るための材料や工具
などが必要でした。
商品化を決めたり量産に入る前に、できるだけ最終形に近いイメージを共有するため、
- カンプ(平面)
- 絵コンテ(動画)
- モックアップやプロトタイプ(立体や空間)
などを実際に作成する必要があったからです。
誰にでもわかりやすく最終的なイメージを伝えるためには、表現の技術を磨くことは重要です。
ある目的に沿って、
- どのようなものをつくるか考え
- 多くの人(関わるプロジェクトのメンバー)に対して
- 共通認識できるような表現をすること
が、デザイナーの仕事です。
ここで、もう一度先に述べた
「頭の中で考える」+「表現して伝える」=デザイン
について振り返ってみます。
この意味をよーく考えてみると、「デザイン」という言葉は、かなり便利に使えるということに気づきます。
プロジェクト(=トピックやテーマなど)を思いっきり拡大して考えると、
人間が作ったものは、何らかの目的を持っているので、それはすべて「デザインされたもの」と言えます。
現在、デザインという言葉は、モノだけでなくコトやヒトなど何にでも使われるようになりました。
「デザイン」という言葉が使われる場はどんどん拡大していって、
- 狭義のデザイン
- 広義のデザイン
のような切り分けで使われるようにもなりました。
(これについては別の記事でまとめますが…)
要するに「デザイン」を取り巻く環境が、時間の経過とともに大きく変化したのです。
そして、デザインの仕事が、どんどん細分化されるようになると、
本来のデザインという意味を理解しないまま、雰囲気だけでデザインという言葉を使う人が増えていきます。
その結果、この記事の冒頭で書いたようなチグハグなやりとりが展開されるようになったと考えられます。
デザインを取り巻く環境の変化はさらに続きます。
例えば、パソコンやスマホを使えば、
- 自由にアイデアを表現して人に見せたり
- アプリなどを使って販売したり
することも手軽にできます。
しかも、一人で!
表現するための道具は安価で手に入り、特別な技術も必要ないから驚くほど簡単です。
今は誰でもデザインをできるような環境が整いました。
だから、現在を生きるすべての人が「デザイナー」とも言えるのではないでしょうか?
人に何かを伝えるため、話したり文章を書いたりすることに加えて、みんながデザインの能力を身につけたら、
もっとコミュニケーションが楽になるはずです。
効果的なデザインのために大切なこと
今、デザインを取り巻く環境は、
- 気軽に表現できるようになった
- 誰でも情報発信する基盤が整っている
というお話をしました。
このような背景からか、
デザインに関心を持つ人が増えている
と感じます。
そして、デザインの能力によって、コミュニケーションがもっと楽になると期待できます。
効果的なデザインのために、あらためてその意味に立ち戻りましょう。
「頭の中で考える」+「表現して伝える」=デザイン
つまり、効果的なデザインとは、
頭の中にあるものを効果的に表現して伝えること
とも言いかえられます。
これを実現させるためには、次の「流れ」を全体観として具体的にとらえ、意識してデザインを進めることが大切です。
条件によっては、最終的にどんな表現をするか決めて逆算することもあります
可能性をとにかく広げま
情報の整理整頓を行い、テーマを決めます
目的やテーマに合った表現方法を選びその技術を身につけます
それぞれの段階に応じた方法はありますが、この流れを把握して一つづつ進めることが大切です。
そうすることで、デザインの良し悪しを判断できるようになります。
デザインは今の時代の正しいコミュニケーションに必要なスキル
デザインを判断するためのスキルは、すべての人に持っておいてほしいスキルです。
今の時代はすべての人にとって自分自身を表現したり、自分の想いを発信することが可能な環境やツールが揃っています。
インターネット環境が発展したことが、一番大きな変化だと言えます。
つまり、
情報をわかりやすく発信したり正しく受け取るために、コミュニケーションスキルは誰にとっても必要な能力と言えます。
特に、情報伝達の80%を占めるといわれる視覚から入ってくる情報を正しく理解するためにはデザインを判断する能力が必要です。
情報量の多い現代では、情報は人から直接伝えられるだけでなく、メディアを通しても届けられます。
そして、メディアから伝えられる情報を正しく受け取るためには、
万人に必要とされる基礎能力「読・書・算」に加え、デザインも必要な能力です。
でも、デザインってセンスとかないと無理なんじゃない?
こういう声をたびたび耳にします。
私も学び始めた頃は、同じように思っていました。
実際、多くの先生方から、「センスを磨け、いいものをたくさん見ろ」と散々言われてきました。
センスを磨くために、
- 美しいものに触れたり
- 美術館やギャラリーで多くの作品を見るとか
- 様々な音楽を聴くとか
- 旅に出るとか
いろいろと試してきました。
もちろん、これらのことは無駄にならないし、間違いなくセンスは磨かれます。
デザインを自由に操るためにも、続けたい習慣です。
しかし日常の情報伝達に最低限必要なデザインの能力自体は、すでに人間に備わっているものです。
それは、単に今まで使ってこなかったり、眠っているだけなんです。
その能力を正しく使えるようにするために、基礎的な知識を得て、それを実際に活用できるようになる訓練をする必要があります。
どうやったらデザイン力を磨けるようになるのでしょうか?
こちらの記事にまとめましたので、ぜひお読みください。
(関連記事:デザイン力をあげる基本的な考え方)
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