一般のカリグラフィーとモダンカリグラフィーはどう違うの?という質問をよくいただきます。
私は実際にモダンカリグラフィーを誰かから習ったわけではありませんが、書籍や記事などの解説はかなりわかりにくいと感じています。
先日、モダンカリグラフィーを書く機会があったので、モダンカリグラフィーのサンプルを照らし合わせて、研究、分析をしてみたところ、いくつかの発見がありました。
レタリングやタイポグラフィー、書道、カリグラフィーを学んできた知識や実践の背景を元に、わかりやすく解説します。
この記事では、
- カリグラフィーとは?
- モダンカリグラフィーとトラディショナルカリグラフィーの違い
についてまとめました。
モダンカリグラフィーが気になっている人や、説明を読んでもいまいちわからないという人の参考になれば嬉しいです。
カリグラフィーとは?
モダンカリグラフィーの解説がわかりにくい背景には、従来のカリグラフィーとの比較で説明されているという点があります。
私がカリグラフィーをやっているというと、ほとんどの人が、カリグラフィーって何?って聞いてくるし、名前を知っている人でも、その具体的内容についてはほとんど知らず、とりあえず聞いたことがあるというのが、一般的な理解かと思います。
そこで、モダンカリグラフィーの説明に入る前にカリグラフィーについて簡単に解説します。
カリグラフィーの語源
カリグラフィーの語源は、「美+書く」という意味のギリシャ語「カロス(kallos)+グラフェイン(graphein)」です。
カリグラフィーは、文字を美しく書くアートと認識されています。
英語のカリグラフィーは、そのまま日本語に訳すと「書道」です。
書く文字の種類やその言葉を使う背景、地域によってそれぞれの書道があります。
例えば海外で、外国人に「書道」をやっていると言いたい時には、「Japanese Calligraphy」と言えば、日本の書道をやっていることが伝わります。
同様に、日本でカリグラフィーというと、西洋のカリグラフィーを指すのが一般的です。
西洋のカリグラフィー、つまりアルファベットを書くカリグラフィーを、ラテンカリグラフィーとか、ウェスタンカリグラフィーなど言い、その他にも、西洋書道とか西洋カリグラフィーということもあります。
これらすべてが一般的にカリグラフィーと呼ばれています。
カリグラフィーと聞いて思い浮かぶイメージ
カリグラフィーの定義は知らなかったけど、イメージはなんとなく知っているという人も多いかと思います。
一般的なカリグラフィーのイメージは次のようなものではないでしょうか。
- クルクルっとした飾りのついたイメージの手書き(風の)文字
- 少し傾斜して文字をつなげて書く筆記体の延長線のような文字
- インクにペンをつけて書く
これらのイメージは、間違ってはいないけれども正しくもありません。
イメージだけでカリグラフィーを理解していると、モダンカリグラフィーを理解することもできません。
なぜなら、モダンカリグラフィーを説明するためによく比較されるのが、「トラディショナルカリグラフィー」だからです。
モダンカリグラフィーの歴史は浅く、従来のカリグラフィーの定義を変えた新しいタイプのカリグラフィーと言われます。
そして、従来のカリグラフィー=カリグラフィーで、その後にできたカリグラフィー=モダンカリグラフィーと呼ばれるようになったようです。
モダンカリグラフィーとトラディショナルカリグラフィーの違い
モダンカリグラフィーについて調べたところ、トラディショナルカリグラフィーとの比較で説明されることが多く、おおよそ次のようなものでした。
- 自由にアレンジできる
- 厳格なルールにとらわれない
- 自分のスタイルで書ける
- 文字の正確性よりもデザイン性を重視
- 文字の高さや形、字間や角度も自由にアレンジすることができる
ここから読み取れるのは、トラディショナルカリグラフィーは、制約が多くて自由が効かないという印象です。
- モダンカリグラフフィー=現代的なカリグラフィー
- トラディショナルカリグラフィー=伝統的なカリグラフィー
になるので、大きな違いは時間です。
モダンカリグラフィーが生まれた背景
まず、カリグラフィーは文字を書くことが前提です。
文字には「読ませる」という機能と目的があるので、読みにくかったり読めない文字というのはNGです。
ラテンカリグラフィーの場合は、アルファベットの使用のルールに従って書いていきます。
ルールは、時間の流れと使用される地域や目的によって合理的なもの引き継がれます。
ですから、伝統とは歴史を隔てて変化しなかった合理性なルールの集積のようなものです。
近年になって私たちの生活様式が大きく変わり、それに伴い従来のカリグラフィーのルールでは、合理性が保てない。
しかし、合理性を外した美しさというものもある。
そのような中で、モダンカリグラフィーという名称、スタイルが生まれたのでしょう。
世界の往来が容易になり、インターネットで瞬時に繋がれる環境も整い、歴史的にも世界は大きく変化しています。
カリグラフィーだけでなく、そのほかの分野でも同様なことが起こっているのです。
トラディショナルカリグラフィーとは?
モダンカリグラフィーを知るために、まずアルファベット文字を理解しましょう!
アルファベットの文字は、Xハイトと呼ばれる文字の高さが決まっています。
そこから上に飛び出した部分をアッセンダー、下に飛び出した部分をディセンダーと言います。
そして、文字を構成する要素は直線と曲線で、o、i、lの3文字の小文字の形を基準にして、その書体の字形、文字間、アッセンダーとディセンダーの長さが決まります。
手で文字を書く場合、文字の基本となるXハイトはペン先のサイズの◯個分というように決めます。
ですから、ペン先のサイズが基準になるのです。
(説明図)
文字の機能は可読性です。
可読性を保つために上記の決まりがあり、それを守った上で美しく表現するのがカリグラフィーです。
印刷技術が発明される以前、長い間、文字は人の手で書かれており、文字は貴族のために書かれた高級な書物や聖書などごく一部に限られていました。
美しく仕上げるために細密画や装飾も数多く施されました。
ここまで説明してきた書体はすべて、先の平たいペン先をつかうことを前提にデザインされていました。
使われる材料や道具も次々に発明されて、使用用途も広がりました。
貿易や金融関係など商売で使う契約書など事務書類にも文字が使われるようになりました。
新しい道具も生まれ、それにともない新しい書体が生まれます。
文字の使用用途も、ゆっくり時間をかけて書くのではなく素早く書き留めるようになります。
使用するペン先も、平たいものから先の尖った丸ペンへと変化します。
文字の傾斜は、文字を速く書くようになり、それに伴い自然に傾いたからです。
印刷技術が生まれる前段階は版画でした。
版画は木版画から銅版画へと、今まで以上に細く洗練された線を表現することが可能になりました。
先の尖った丸ペンで書くカッパープレート体という書体は、銅版画に彫られた細い線に似ているということで名付けられました。
トラディショナルカリグラフィーで使うペン先は、先の平たいものと先の尖った丸ペンの2種類です。
平たいペン先も丸ペン先も同様にペン先の向きを固定して書きますが、平たいペン先は力を一定に保つのに対して、丸ペンは、圧の入れ具合で太い部分と細い部分をコントロールします。
いずれにしても、カリグラフィーの美しさの一番のポイントは、この線の太さと細さのコントラストにあります。
このような歴史を通して、カリグラフィーの定義付けができあがりました。
ここまでを便宜上、トラディショナルカリグラフィーと呼びます。
モダンカリグラフィーとは
その後、時代はさらに進化します。
手書きから印刷、そしてデジタルデータへ。
活字やコンピューターで使われるフォントと手書きの文字を組み合わせて使うことも可能になり、文字を書く支持体も紙だけでなく、金属やガラス、プラスチックなど幅が広がります。
そして21世紀になって、文字を手書きで書くシーンはぐっと減ってしまいました。
文字を書く必要性は少なくなり、それだけに手書きの文字が貴重なものとして見直されています。
せっかく手で書くのなら美しく心のこもった文字を書きたい。
今カリグラフィーが注目される理由は、そんな想いにあるのでしょう。
モダンカリグラフィーは、丸ペンや筆などを使い、筆圧をコントロールしながら書きます。
筆圧に想いを込めて書くという感覚が自由というイメージにつながっているのかもしれませんね。
硬質のペンではなく、筆を使うと文字を書ける支持体の幅も広がります。
最後までお読みいただきありがとうございました。
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